中国電子署名法と政府の電子署名使用推進――新型コロナウイルスの大流行、電子署名市場に追い風

額尓敦畢力格(エレドンビリゲ)
中国弁護士
上海開澤法律事務所パートナー弁護士。日本一橋大学法学博士。人事労務、コーポレート・M&A、撤退・清算、訴訟・債権回収、知的財産・リスク管理、エンターテインメント、国際取引・海外進出、コンプライアンス等企業法務全般を主に取り扱う。現在は約30名のチームで、中国人弁護士ならではの強みを生かした的確かつ迅速な解決力をモットーに、中国全域で日系企業に特化した包括的な業務を提供する。

はじめに

2020 年 2 月 11 日、中国中央政府新型コロナウイルス対策チームの記者会見において、人力資源社会保障部就業促進司司長の張瑩氏は、「企業は、新卒採用時にオンライン面接、オンライン契約締結、オンライン入社を」と発言し、また人力資源社会保障部弁公庁は「電子労働契約締結関連問題に関する文書」(人社庁函〔2020〕33 号)は「使用人は労働者との間で合意により電子労働契約を締結することができる。電子労働契約を締結する際に、電子署名法等の法律規定に従って書面で行われたとみなされる電子データ及び信頼性の高い電子署名を用いなければならない」とし、政府による電子署名の推進は労働契約の締結まで広げられた。

中国政府は近年電子署名の積極的な使用を推進してきており、2019 年に電子署名法の改正が行われた。この法改正を受けて、中国政府各省庁は電子署名の使用をさらに広げてきました。iiMedia Research の調査結果(※)によれば、2020 年の中国電子署名使用規模は 374.4 億回なると予測しており、新型コロナウイルスの流行はさらに追い風になった。
※ iiMedia Research, 2019 China Electronic Contract Industry Research Report.

一、中国電子署名法の歩み

中国電子署名法は、2005 年 4 月 1 日に施行され、2019 年 4 月 23 日に一度改正された。

2000 年以来中国政府各省庁及び関連組織団体は、電子署名の促進を積極的に行ってきました。政府機関は率先して公共サービス、土地売買契約、許認可等の手続をオンライン化してきました。今回コロナウイルスの流行により、人と人の接触をできる限り減らしたいというニーズが、電子署名の推進にさらに拍車をかけた。その中で、2004 年に中国電子署名法(以下「電子署名法」という)の制定を前後して様々な分野で電子署名が推進されてきた。

これまでに公布された電子署名関連主な法令・指針等は以下通りである。

公布年交付機関名称
2000 年工業情報化部インターネット情報服務管理方法
2003 年国家基準(GB/T18769-2003)大口商品電子取引基準
2003 年国家基準(GB/T19252-2003)電子商務協議
2004 年全国人民代表大会中国電子署名法
2006 年国家基準(GB/T20520-2006)タイムスタンプ基準
2007 年商務部インターネット上の取引に関する指導意見(暫定)
2007 年公安部等情報安全等級保護管理弁法
2009 年国家基準(SB/T10518-2009)電子商務モデル基準
2009 年国家基準(SB/T10519-2009)インターネット上の取引服務基準
2009 年工業情報化部電子認証服務管理方法
2009 年国家暗号管理局電子認証服務暗号理弁法
2010 年国家暗号管理局(GB/T25056-2010)電子認証システム暗号及びその関連安全技術規範
2010 年国家工商行政管理局(現市場管理監督総局)インターネット上の商品取引及び関連服務行為管理暫定弁法
2011 年商務部電子商務第三者取引フラットフォーム服務規範
2013 年商務部電子契約オンライン締結手続規範
2014 年国務院国務院オンライン政務服務に関する規定
2019 年人力資源社会保障部全国統一社会保険公共服務プラットフォームズに関する指導意見
2019 年国会市場監督管理総局企業設立時間短縮に関する意見
2019 年全国人民代表大会中国電子署名法改正

二、電子署名の定義と使用範囲

(1)電子署名とは

中国電子署名法第二条一項は、「本法で言う電子署名とは、データ電文において電子形式で署名者の身分を識別し、かつ署名者がその内容を承認していることを含むデータという」としており、さらに同条第二項は、「本法で言うデータ電文とは、電子、光学、磁気あるいは類似の方法で生成、発送、受領あるいは保存する情報を指す」としている。

電子署名法第一号訴訟といわれている 2005 年の北京市海淀区裁判所が下した判決において、携帯ショートメールに関して「内容を掲載する形式を整えており」、「いつでも調査照合できる」としてその「データ電文性」を認めた。

(2)電子署名適用しない項目とは

中国電子署名法は、除外する方法で電子署名の適用可能な範囲を確定しています。具体的に以下の三つ項目に関して電子署名の使用を禁止している。

  • 婚姻、養子縁組、相続等身分に関する事項
  • 水道、熱、電気ガス等公共サービスの提供停止に関する事項
  • 法律法規行政法規等で電子署名の使用を禁止するその他状況、

等になる。

逆に上記三つの項目に当たらない事項に関しては電子署名の使用を認めている。

三、電子署名の法的効力

中国電子署名法第十四条は、「信頼できる電子署名と手書き署名あるいは捺印と同等の法的効力を有する」としており、信頼できる電子署名の法的効力を肯定している。しかし、どのような要件を満たせば信頼できる電子署名となるか。

(1) 信頼できる電子署名

中国電子署名法第十三条は、電子署名の信頼性に関して以下の判断基準を設けている。

  • 電子署名作成時において、電子署名者専用でありこと(唯一性)
  • 電子署名時において、電子署名者のみがコントロールしていること(独占性)
  • 署名後、署名対して行われたいかなる改変等も発見できること(真実性)
  • 署名後、電子データの内容と形式に対して行われたいかなる改変等も発見できること(完全性)

等判断基準を設けおり、裁判実務においてもこの基準で判断されている。

なお、深セン市中級人民法院の(2019)粤 03 民終 824 号判決において、信頼できる電子署名の完全性は、国家密碼(暗号の意味)管理局と公安部の証書(許認可)の取得によってのみ保障されるとした。そして、現在最も広く使用されている「電子認証」は次の二つがあるという。すなわち、「コンピューター等あるいはクラウド上に行われる認証」と「USBkey 等に保管される認証」であり、一般的に使われている認証は工業と情報化部が発行する「電子認証服務許可証」を取得したCA機関が発行していると判じした。言い換えれば、当該判決から電子署名の真実性、完全性を保つために、一つは国家密碼(暗号の意味)管理局と公安部の証書(許認可)、もう一つは工業と情報化部が発行する「電子認証服務許可証」の両方を取得しているCA機関でなければならないことは伺える。

(2) 電子署名による契約書

電子署名による契約書、上記(1)の信頼できる電子署名によって行われた契約書のことを指す。契約書自体は当然データ電文にあたる。

2013 年の商務部が公布した「電子契約オンライン締結手続に関する規範(SB/T11009-2013)」の定義によれば、電子契約書とは「平等な自然人、法人、その他組織等主体間でデータ電文により、かつ電子通信手段を通じて民事権利義務関係を発生、変更、終了させる契約のことを指す」としています。また、中国契約法第十条は、「当事者間で行われる契約は書面、口頭、その他の形式によることができる」として、その第十一条において、「書面形式とは、契約書、書簡及びデータ電文(電報、テレックス、ファクシミリ、電子データの交換と電子メール)等その掲載する内容を有形に表現する形式を指す」とし、さらに第二十三条においては「当事者間で書面により契約を締結した場合、双方当事者が署名あるいは捺印したときに成立する」と規定している。

上記の規定によれば、中国契約法上は、電子署名による契約締結を認めており、またデータ電文形式の採用が可能である。

上記(1)における中国電子署名法ないし裁判実務上求められている「信頼できる電子署名」によれば、法的リスクは一見クリアのように見えるが、電子契約の場合往々にしてその独占性が問題になることが多い。すなわち、当事者の一方が自己意志で自ら署名を行ったものではないと主張することである。直近の一例をあげると、保険会社と保険加入者間の交通事故による保険金請求事件に関する浙江省嘉興市南湖区人民法院の(2019)浙 0402 民初 1693 号判決である。保険会社(被告)は電子署名による契約書における免責特約により保険会社の免責を主張したが、裁判所は「被告の保管資料において、顔識別システムと加入者顔写真付き身分証の欄あるが、そこに原告が現場にて契約締結したことを証明する写真等はない」ため、原告が保険加入手続の際に行った電子署名の独占性が証明できないとして保険会社の免責を認めないとした。

他方、中国電子署法第二十七条は、電子署名者が電子署名に関するデータ等を失った場合速やかに相手方に通知する義務を定めており、また、第三十二条において他人の電子署名を偽造、偽り、盗用した場合の刑事責任を定めている。

終わりに

コロナ禍の長期化に伴い、リモート勤務ないしビジネス相手との間の契約の締結等もオンラン化せざるを得ない。取引契約は従来メールによるやり取り等も多かったが、最も保守的な分野である労働契約に関しても政府が電子契約締結を促進するに至っている。面接から内定、そして労働契約等一連の手続において電子署名が欠かせなくなり、その証拠力を維持しなければならない。そのため、裁判実務上の判断基準の把握、認証機関の許可書の取得状況等を確認する必要がある。

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